特別養護老人ホーム(介護老人福祉施設)は、定員30人以上の広域型特養と、定員29人以下の地域密着型介護老人福祉施設に分かれます。地域密着型は原則として施設所在地の市町村住民のみが利用可能で、広域型は市外からの申込も可能です。以下の記述は、特段断らない限り両者を合わせて「特養」としています。
申込順ではない、という原則
特養の入居順は、申込書を出した順番では決まりません。2015年4月の介護保険法改正で入所対象が原則要介護3以上に限定され、緊急度に応じた入所判定の運用が明確化されました。入所判定委員会の設置自体は2002年の厚労省通知で既に求められていたものです。
厚生労働省の通知では「介護の必要の程度や家族の状況等を勘案し、特にその必要性が高い方を優先的に入所させる」と明記されています。申込書を早く出しても、緊急度が低いと判断されれば順番は後になることが一般的。
入所判定委員会とは
各特養施設が設置する内部委員会で、入所を希望する方の優先順位を決める組織です。構成メンバーは施設により異なりますが、一般的に次のような職種が参加します。
- 施設長または生活相談員
- 介護支援専門員(ケアマネジャー)
- 看護師
- 介護職員のリーダー
- 外部委員(厚労省指針で第三者性確保のため参加が望ましいとされる。必置ではない)
委員会は定期的(月1回〜数か月に1回)に開催され、申込者の情報を精査し、緊急度スコアをつけて順位を決めます。判定結果は本人・家族に直接は開示されないケースが多く、入居の声がかかって初めて「順番が回ってきた」と分かる形です。
判定の5項目
多くの自治体・施設が採用している判定項目は、次の5つが中心です。自治体により名称や配点が多少異なりますが、大枠は共通しています。
| 項目 | 見られるポイント |
|---|---|
| ① 要介護度 | 要介護3・4・5。介護量の多い方ほど高得点 |
| ② 介護者の状況 | 独居・高齢の配偶者のみ・家族が就労や遠方・家族自身も病気 |
| ③ 本人の状態 | 認知症のBPSD(徘徊・暴力等)、医療的ケアの必要性、転倒リスク |
| ④ 住環境 | 段差が多い・浴室やトイレに介護設備がない・エレベーターなし等 |
| ⑤ 地域支援の限界 | 在宅サービスを最大限活用しても限界、ショート等で凌げない |
これらを総合的に見て、「このまま在宅を続けるのは難しい」と判定される方が優先されます。要介護度だけでなく、家族状況・住環境まで含めた総合判定というのが特徴です。
要介護1・2の特例入所4要件
原則は要介護3以上ですが、要介護1・2の方でも特例入所の対象となる場合があります。厚労省が定める4要件のいずれかに該当すれば、市町村の入所判定委員会で認められたうえで入所可能です。
① 認知症があり、日常生活に支障をきたす症状・行動や意思疎通の困難さが頻繁に見られる
② 知的障害・精神障害等を伴い、日常生活に支障をきたす症状・行動や意思疎通の困難さが頻繁に見られる
③ 家族等による深刻な虐待が疑われ、心身の安全・安心の確保が困難
④ 単身世帯等で、家族等の支援が期待できず、地域での介護サービスや生活支援の供給が不十分
4要件のうち最も多く使われるのが①(認知症)と④(単身・地域資源不足)。診断書・ケアマネの意見書・住環境の資料などを揃えて申請すると、判定が通りやすくなります。
緊急度を家族が伝える方法
入所判定委員会が見るのは申込書と添付資料だけ。家族が直接委員会に呼ばれることはありません。書面で緊急度が伝わる状態に整えることが入居への近道になります。
申込書に具体的に書く
- 「大変」「困っている」という抽象表現ではなく、具体のエピソードで
- 「週◯回の夜間徘徊」「◯月に家族が骨折し介護困難」「独居で火の始末が難しい」等
- 数字・頻度・時期を明示
ケアマネジャーの意見書
担当ケアマネジャーから施設に意見書を出してもらうことで、専門職視点の緊急度評価が伝わります。ケアマネとしては客観的に書くしかないので、家族から詳しい状況を伝えることが出発点です。
添付したい資料
- 要介護認定結果通知書
- 主治医意見書の写し(診断名・症状の記載)
- サービス利用票(在宅で既に使っているサービスの一覧)
- 家族の就労証明書・診断書(家族の介護力を示す材料)
- 住環境の写真(段差・浴室等の障壁)
複数施設への同時申込
特養への申込は1施設に限る必要はなく、複数施設への同時申込が一般的な戦略です。広域型特養なら市外の施設にも申込みでき、選択肢の母数を広げられます。
申込数の目安
地域や家族の状況によりますが、3〜5施設への同時申込が一つの目安。多すぎると管理が難しくなり、少なすぎると順番が回ってこないリスクが高まります。ケアマネジャーと相談して、本人の状態・家族の事情に合った施設を絞り込みましょう。
各施設の傾向を知る
- 医療ニーズ対応型:看護師配置が手厚く、吸引・経管栄養等の医療ケア対応可
- 認知症対応強化型:BPSDのある方への対応経験が豊富
- 看取り対応型:終末期まで受け入れてくれる
- ユニット型:個室でプライバシーが保たれる(費用は高め)
- 従来型(多床室中心):費用が抑えられる
入居の連絡が来たら
多くの施設では短期間(数日〜1週間)で入居の可否を回答することを求められます。本人・家族の準備が整っていないと次の候補者に回ってしまいます。連絡を受けられる電話番号を複数登録しておき、家族間で即決できる体制を作っておくのが実務的です。
この記事の要点
- 特養の入居順は申込順ではなく、入所判定委員会による緊急度判定
- 判定の5項目:要介護度・介護者状況・本人の状態・住環境・地域支援の限界
- 要介護1・2は特例入所4要件のいずれか該当で申込可能
- 家族が直接訴える場がないため、書類での伝え方が決め手
- 抽象表現ではなく、頻度・時期・エピソードで具体的に
- ケアマネ意見書・添付資料で専門職視点の緊急度を補強
- 複数施設への同時申込(3〜5施設目安)、入居連絡時の即応体制