介護事業の「法人集中度」マップ
1法人が地域の介護を支配する29市区町村
全国223,196事業所の法人番号を使い、市区町村ごとの法人別シェアを算出。特定の1法人に地域の介護が依存している構造を可視化した。
前回記事との関係
本稿は「単一事業所リスクマップ」の続編にあたる。前回は「その事業所が閉じたらサービスが消滅する」地域を特定したが、今回は視点を法人単位に引き上げ、「その法人が撤退したら地域の介護が崩壊する」構造を分析する。
事業所単位では複数あっても、同じ法人が運営していれば実質的にリスクは集中している。法人番号を使った分析により、この「見えにくい集中」を可視化した。
分析手法
介護サービス情報公表システムに登録されている223,196事業所の法人番号を市区町村単位で集計し、各法人の事業所数シェアを算出した。
「集中」の定義は、特定の1法人が市区町村内の全事業所の40%以上を運営しているケースとした。さらに、65歳以上人口3,000人以上の市区町村に限定し、需要規模が小さすぎる地域は除外している。
13市区町村で1法人がシェア50%超
| 順位 | 市区町村 | トップ法人 | シェア | 事業所 | 全体 |
|---|---|---|---|---|---|
| 1 | 北海道美瑛町 | 社会福祉法人美瑛慈光会 | 64.0% | 16 | 25 |
| 2 | 広島県坂町 | 社会福祉法人恩賜財団済生会 | 63.6% | 14 | 22 |
| 3 | 千葉県御宿町 | 社会福祉法人外房 | 57.1% | 4 | 7 |
| 4 | 岐阜県白川町 | 社会福祉法人白川町社会福祉協議会 | 56.5% | 13 | 23 |
| 5 | 山形県中山町 | 社会福祉法人中山福祉会 | 54.5% | 6 | 11 |
| 6 | 山形県真室川町 | 社会福祉法人まむろ川福祉会 | 54.5% | 6 | 11 |
| 7 | 栃木県野木町 | 医療法人社団友志会 | 51.9% | 14 | 27 |
| 8 | 宮城県川崎町 | 社会福祉法人鶴寿会 | 50.0% | 8 | 16 |
| 9 | 岐阜県川辺町 | 社会福祉法人慈恵会 | 50.0% | 5 | 10 |
| 10 | 徳島県美波町 | 社会福祉法人東紅会 | 50.0% | 11 | 22 |
| 11 | 高知県黒潮町 | 社会福祉法人黒潮福祉会 | 50.0% | 9 | 18 |
| 12 | 宮城県村田町 | 社会福祉法人宮城福祉会 | 50.0% | 8 | 16 |
| 13 | 茨城県河内町 | 社会福祉法人河内厚生会 | 50.0% | 5 | 10 |
北海道美瑛町では、社会福祉法人美瑛慈光会が全25事業所のうち16事業所(64%)を運営している。特養・デイサービス・訪問介護・ケアマネなど幅広いサービスを1法人がカバーしており、この法人の経営判断が町の介護サービス全体を左右する構造になっている。
特別養護老人ホーム(介護老人福祉施設)は、定員30人以上の広域型特養と、定員29人以下の地域密着型介護老人福祉施設に分かれます。地域密着型は原則として施設所在地の市町村住民のみが利用可能で、広域型は市外からの申込も可能です。以下の記述は、特段断らない限り両者を合わせて「特養」としています。
2位の広島県坂町では、恩賜財団済生会が63.6%。済生会は全国規模の社会福祉法人だが、この町では22事業所中14を運営しており、事実上の地域独占状態にある。
86%が社会福祉法人 ―― なぜ社福法人が独占するのか
29市区町村のトップ法人のうち、25件(86%)が社会福祉法人、4件(14%)が医療法人だった。株式会社は1件もない。
この偏りには構造的な理由がある。
- 特養の参入規制:特別養護老人ホームは原則として社会福祉法人と自治体しか運営できない。町村部では特養を軸に訪問介護・デイサービス・ケアマネを併設するのが一般的であり、結果的に1法人が複数サービスを運営する構造になる
- 歴史的経緯:介護保険制度(2000年)以前から、町村部の福祉サービスは社会福祉協議会や地元社福法人が担ってきた。民間参入が進んでも、既存法人の地盤は容易に崩れない
- 参入の経済合理性:人口が少ない町村では、複数の法人が競合できるだけの需要がない。1法人が全サービスをカバーするのが経済的に合理的な構造になっている
社会福祉法人は株式の売買による買収ができない(持分がないため)。しかし、経営難の社福法人に対する「合併」「事業譲渡」は法律上可能であり、近年増加傾向にある。29市区町村のトップ法人を「買収」するのではなく、経営統合や事業承継の形で取り込む戦略が現実的。医療法人4件(野木町・滑川町・長洲町・大郷町)については、通常のM&Aスキームが適用可能。
トップ法人は平均7.1種別を運営 ―― 多角化が進んでいる
29市区町村のトップ法人が運営するサービスの種別数は平均7.1種別。訪問介護・通所介護・ショートステイ・特養・ケアマネなど、在宅から施設までを1法人がカバーしている。
これは利用者にとっては「ワンストップ」で便利な反面、選択の余地がないことを意味する。その法人のサービスに不満があっても、代替が地域内に存在しない。
40%超の全29市区町村
| 順位 | 都道府県 | 市区町村 | トップ法人 | シェア | 事業所 | 全体 | HHI |
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 1 | 北海道 | 美瑛町 | 社会福祉法人美瑛慈光会 | 64.0% | 16 | 25 | 4,464 |
| 2 | 広島県 | 坂町 | 社会福祉法人恩賜財団済生会 | 63.6% | 14 | 22 | 4,380 |
| 3 | 千葉県 | 御宿町 | 社会福祉法人外房 | 57.1% | 4 | 7 | 3,878 |
| 4 | 岐阜県 | 白川町 | 白川町社会福祉協議会 | 56.5% | 13 | 23 | 3,800 |
| 5 | 山形県 | 中山町 | 社会福祉法人中山福祉会 | 54.5% | 6 | 11 | 3,554 |
| 6 | 山形県 | 真室川町 | 社会福祉法人まむろ川福祉会 | 54.5% | 6 | 11 | 4,050 |
| 7 | 栃木県 | 野木町 | 医療法人社団友志会 | 51.9% | 14 | 27 | 3,114 |
| 8 | 宮城県 | 川崎町 | 社会福祉法人鶴寿会 | 50.0% | 8 | 16 | 3,828 |
| 9 | 岐阜県 | 川辺町 | 社会福祉法人慈恵会 | 50.0% | 5 | 10 | 3,800 |
| 10 | 徳島県 | 美波町 | 社会福祉法人東紅会 | 50.0% | 11 | 22 | 3,058 |
| 11 | 高知県 | 黒潮町 | 社会福祉法人黒潮福祉会 | 50.0% | 9 | 18 | 3,025 |
| 12 | 宮城県 | 村田町 | 社会福祉法人宮城福祉会 | 50.0% | 8 | 16 | 3,594 |
| 13 | 茨城県 | 河内町 | 社会福祉法人河内厚生会 | 50.0% | 5 | 10 | 4,200 |
| 14 | 広島県 | 大崎上島町 | 社会福祉法人大崎福祉会 | 47.8% | 11 | 23 | 3,384 |
| 15 | 新潟県 | 津南町 | 社会福祉法人つなん福祉会 | 47.6% | 10 | 21 | 3,787 |
| 16 | 埼玉県 | 滑川町 | 医療法人昭友会 | 47.1% | 8 | 17 | 3,218 |
| 17 | 京都府 | 大山崎町 | 社会福祉法人洛和福祉会 | 47.1% | 8 | 17 | 2,734 |
| 18 | 鳥取県 | 南部町 | 社会福祉法人伯耆の国 | 46.2% | 6 | 13 | 3,728 |
| 19 | 宮城県 | 丸森町 | 社会福祉法人ウェルフェア仙台 | 45.0% | 9 | 20 | 2,800 |
| 20 | 熊本県 | 長洲町 | 医療法人社団聖和会 | 43.8% | 14 | 32 | 2,539 |
| 21 | 鹿児島県 | 南大隅町 | 社会福祉法人聖光会 | 42.9% | 6 | 14 | 2,653 |
| 22 | 岐阜県 | 池田町 | 社会福祉法人新生会 | 42.5% | 17 | 40 | 2,200 |
| 23 | 大阪府 | 河南町 | 社会福祉法人カナン | 42.1% | 8 | 19 | 2,410 |
| 24 | 長野県 | 飯綱町 | 飯綱町社会福祉協議会 | 41.2% | 7 | 17 | 2,457 |
| 25 | 北海道 | 芦別市 | 社会福祉法人芦別慈恵園 | 40.9% | 9 | 22 | 2,231 |
| 26 | 大阪府 | 豊能町 | 社会福祉法人豊悠福祉会 | 40.5% | 15 | 37 | 2,111 |
| 27 | 北海道 | 白糠町 | 白糠町社会福祉協議会 | 40.0% | 4 | 10 | 3,400 |
| 28 | 宮城県 | 大郷町 | 医療法人社団俊香会 | 40.0% | 6 | 15 | 2,800 |
| 29 | 愛媛県 | 伊方町 | 伊方町社会福祉協議会 | 40.0% | 8 | 20 | 2,600 |
HHI(ハーフィンダール・ハーシュマン指数)は市場集中度の指標で、2,500を超えると「高度に集中した市場」とされる。29市区町村のうち24件がHHI 2,500超であり、いずれも寡占的な構造にある。
このデータをどう読むか
1. 買収・経営統合の判断材料として
法人集中度が高い地域のトップ法人は、その地域の介護インフラそのものである。この法人との経営統合(社福法人の場合は合併、医療法人の場合はM&A)は、地域の介護サービス基盤を丸ごと取得することを意味する。
ただし、社会福祉法人には持分がないため、株式取得による買収はできない。現実的な手段は、経営難に陥った社福法人への「合併」提案、または事業の一部を切り出す「事業譲渡」である。
2. 新規参入の判断材料として
1法人が高シェアを占める地域は、新規参入のハードルが高い一方で、利用者に選択肢を提供できるという社会的意義がある。自治体が競争促進のために新規事業者を歓迎するケースもある。
3. 地域包括ケアの脆弱性として
地域包括ケアシステムは複数の事業者の連携を前提としているが、1法人がすべてを運営している地域では、法人内部の調整に過ぎない。その法人の経営方針が変わったり、経営者が交代したりした場合、地域全体のケアの質が一気に変動するリスクがある。
分析の限界
- 法人番号が未記載の事業所がある。個人事業主や記載漏れにより、一部の事業所は法人単位の集計から漏れている。
- 隣接市区町村からの利用は考慮していない。特に都市部では他の市区町村の事業者も選択肢に入る。
- シェアの高さ=悪とは限らない。地域の需要に対して十分なサービスを提供している法人を、集中度だけで問題視することは適切ではない。
- サービスの質は評価していない。シェアが高い法人が良質なサービスを提供している可能性は十分にある。
データ出典
- 介護サービス情報公表システム(厚生労働省)2025年3月時点。全223,196事業所の法人番号を集計。
- 令和2年国勢調査(総務省統計局)。65歳以上人口。
- HHI(ハーフィンダール・ハーシュマン指数)は、各法人のシェア(%)を二乗して合計した値。10,000が完全独占、0に近いほど分散。
分析・執筆: 在宅ケアナビ編集部|公開日: 2026年4月11日