小多機とは
小規模多機能型居宅介護(通称:小多機)は、「通い」「泊まり」「訪問」の3つのサービスを1つの事業所で柔軟に組み合わせて利用できる地域密着型サービスです。
2006年の介護保険法改正で創設されました。登録定員は29人以下と小規模で、顔なじみのスタッフが「通い」も「泊まり」も「訪問」もすべて担当します。利用者にとって環境の変化が少なく、特に認知症の方に適したサービスとして評価されています。
・通い:日中、事業所に通って食事や入浴、機能訓練を受ける
・泊まり:体調や家族の事情に応じて事業所にそのまま宿泊
・訪問:自宅にスタッフが訪問して生活支援や身体介護を行う
この3つを同じスタッフ・同じ事業所で利用できるのが最大の特長です。
一般的な在宅介護では、デイサービス・ショートステイ・訪問介護をそれぞれ別の事業所と契約します。小多機はこれらを一括して提供するため、利用者も家族もコミュニケーションの負担が大幅に軽減されます。
小多機の全国データ
2025年時点の小多機の全国状況を整理します。
| 指標 | 数値 |
|---|---|
| 全国の事業所数 | 約5,800事業所 |
| 利用者数 | 約12万人 |
| 65歳以上1万人あたり事業所数 | 約1.6事業所(全国平均) |
| 事業所数の推移 | 横ばい(新設と廃止がほぼ同数) |
| 最大の特徴 | 都市部と地方部で大きな格差 |
事業所数は近年横ばいの状態が続いています。新設される事業所がある一方、人材不足や経営難から廃止に至るケースも少なくありません。全体の利用者数は約12万人で、在宅介護サービス全体の中ではまだ少数派と言えます。
都道府県別の整備状況
65歳以上人口1万人あたりの事業所数で都道府県を比較すると、最多の長崎県(3.8)と最少の東京都(0.5)で7.6倍もの差があります。上位5県と下位5都府県を並べます。
事業所密度の上位5県
| 順位 | 都道府県 | 65歳以上1万人あたり | 評価 |
|---|---|---|---|
| 1 | 長崎県 | 3.8 | 充実 |
| 2 | 島根県 | 3.5 | 充実 |
| 3 | 佐賀県 | 3.2 | 充実 |
| 4 | 北海道 | 2.8 | やや充実 |
| 5 | 鹿児島県 | 2.7 | やや充実 |
事業所密度の下位5都府県
| 順位 | 都道府県 | 65歳以上1万人あたり | 評価 |
|---|---|---|---|
| 43 | 千葉県 | 0.8 | 不足 |
| 44 | 埼玉県 | 0.7 | 不足 |
| 45 | 神奈川県 | 0.7 | 不足 |
| 46 | 大阪府 | 0.6 | 深刻 |
| 47 | 東京都 | 0.5 | 深刻 |
※数値は厚生労働省「介護サービス情報公表システム」のデータをもとにした概算
上位・下位の比較
小多機が多い地域・少ない地域
多い地域の特徴
上位には九州(長崎・佐賀・鹿児島)、山陰(島根)、北海道が並びます。これらの地域に共通するのは以下の点です。
- 高齢化率が高く、在宅介護のニーズが根強い
- 過疎地域が多く、複数の事業所を回るのが困難なため「1か所で完結」する小多機の需要が高い
- 土地・建物のコストが低く、事業所を開設しやすい
- 自治体が積極的に整備計画に組み込んでいる
少ない地域の特徴
下位は首都圏(東京・神奈川・埼玉・千葉)と大阪府に集中しています。
- 地価が高く、登録定員29人以下の小規模事業所では採算が取りにくい
- デイサービスやショートステイが豊富にあり、そちらが優先的に利用される
- ケアマネジャーの認知度が低く、紹介されにくい
- 公募制のため、自治体が整備枠を設けないとそもそも開設できない
意外な発見:中核市・政令市の差
都道府県単位ではなく市町村単位で見ると、別の傾向が浮かびます。中核市レベルでは、地方都市の方が小多機の充実度が高い傾向にあります。
政令市の中では北九州市と熊本市が上位に位置しています。どちらも高齢化率が全国平均を上回り、自治体が小多機の整備に積極的に取り組んできた地域です。一方、横浜市やさいたま市は政令市の中でも下位に沈んでいます。
なぜ地域差が生まれるのか
小多機の地域格差は、複数の構造的要因が重なって生じています。
土地・建物コストの壁
小多機は「通い」「泊まり」の機能を持つため、一定の床面積が必要です。都市部では不動産コストが事業採算を大きく圧迫します。登録定員29人以下の小規模な事業所では、都市部の賃料に見合う収益を上げることが難しいのが実情です。
市町村の総量規制
小多機は地域密着型サービスであり、市町村が「日常生活圏域」ごとに設置数を計画で定めています。つまり、事業者が自由に開設することはできず、自治体の介護保険事業計画に基づく公募でしか参入できません。この計画にどれだけ小多機を盛り込むかは、自治体の判断に委ねられています。
人材確保の難しさ
小多機のスタッフは「通い」「泊まり」「訪問」の3サービスすべてに対応する必要があります。デイサービス専門やヘルパー専門のスタッフと比べて求められるスキルの幅が広く、採用と育成の両面でハードルが高いのが現実です。
既存サービスとの競合
都市部ではデイサービスやショートステイの事業所が豊富にあり、利用者もケアマネジャーもそちらを優先する傾向があります。「わざわざ小多機を選ぶ理由」が見えにくい環境では、事業者も参入に慎重になります。
小多機の利用方法と費用
小多機は月額定額制です。要介護度に応じた包括報酬が設定されており、「通い」「泊まり」「訪問」をどれだけ利用しても基本料金は変わりません。
要介護度別の自己負担額(1割負担の場合)
| 要介護度 | 月額報酬(1割負担額) |
|---|---|
| 要支援1 | 約3,400円 |
| 要支援2 | 約6,900円 |
| 要介護1 | 約10,400円 |
| 要介護2 | 約15,300円 |
| 要介護3 | 約22,300円 |
| 要介護4 | 約24,600円 |
| 要介護5 | 約27,000円 |
別途かかる費用
- 食費:1食あたり500〜800円程度(事業所により異なる)
- 宿泊費:1泊あたり1,000〜3,000円程度
- 日用品費:おむつ代など実費
小多機を利用すると、訪問介護・デイサービス・ショートステイは利用できなくなります。これは小多機が「通い・泊まり・訪問」を包括的に提供するサービスだからです。訪問看護や福祉用具貸与などは引き続き利用できます。
小多機とケアマネの関係
小多機の利用を始めると、ケアマネジャーが事業所所属のケアマネに変更になります。これは制度上の仕組みで、利用者が選ぶことはできません。
なぜケアマネが変わるのか
小多機は「通い・泊まり・訪問」をすべて事業所内でマネジメントするため、ケアプランの作成も事業所内のケアマネが担当します。現在の居宅介護支援事業所のケアマネジャーとは契約が終了し、新しいケアマネに引き継がれます。
現場で起きていること
- 信頼関係のあるケアマネが変わることへの利用者・家族の抵抗感
- 居宅ケアマネが「自分の担当から外れる」ため、小多機を紹介しにくいという構造的な問題
- 結果として、小多機が適しているケースでも紹介されないことがある
よくある質問
小多機はどこで探せますか?
お住まいの地域の地域包括支援センターに相談するのが最も確実です。また、厚生労働省の介護サービス情報公表システムでも事業所を検索できます。現在のケアマネジャーに聞いてみるのもよい方法です。
小多機に入ると今のケアマネは変わりますか?
はい、変わります。小多機では事業所内のケアマネジャーがケアプランを作成するため、現在の居宅ケアマネとの契約は終了します。引き継ぎは事業所間で行われます。
デイサービスと小多機の違いは何ですか?
デイサービスは「日中の通い」のみですが、小多機は「通い」「泊まり」「訪問」の3サービスを1つの事業所で柔軟に利用できます。体調が悪い日は訪問に切り替えたり、家族の急用で泊まりを追加したりと、状況に応じた対応が可能です。
空きがない場合はどうすればいいですか?
事業所に待機リスト(キャンセル待ち)への登録を依頼しましょう。待機中はデイサービスやショートステイなど他のサービスで対応します。近隣の複数の事業所に同時に申し込むことも可能です。
認知症でなくても利用できますか?
はい、利用できます。要支援1以上の認定を受けていれば、認知症の有無にかかわらずどなたでも利用可能です。認知症の方に適したサービスとして知られていますが、身体機能の低下や家族の介護負担軽減を理由に利用する方も多くいます。
まとめ
小規模多機能型居宅介護は、在宅介護の柔軟性を大きく高めるサービスです。しかし、事業所密度には最大7.6倍の地域格差があり、都市部ほど利用しにくい状況にあります。地方では高齢化対策として積極的に整備が進む一方、都市部では不動産コストと総量規制が壁になっています。
「小多機が近くにあるかどうか」は住んでいる地域によって大きく異なります。まずはお住まいの地域包括支援センターに相談し、選択肢を確認することをお勧めします。
本記事の数値は、厚生労働省「介護サービス情報公表システム」の公開データおよび総務省「人口推計」をもとに在宅ケアナビが集計・概算したものです。65歳以上人口1万人あたりの事業所数は都道府県単位の概算値であり、市区町村単位ではさらに大きな差がある場合があります。