訪問看護とは
訪問看護は、看護師(または保健師・准看護師・助産師)が自宅を訪問し、主治医の指示に基づいて医療的なケアを提供するサービスです。点滴や褥瘡(床ずれ)の処置、服薬管理、人工呼吸器など医療機器の管理、ターミナルケア(看取り)まで、病院で受けていた医療ケアの多くを在宅でも継続できるのが大きな特徴といえます。
提供主体は訪問看護ステーション(独立型)と病院・診療所の訪問看護部門の2つに分かれ、多くは前者が担っています。ステーションには看護師2.5人以上(常勤換算)の配置が人員基準で定められています。
退院後も医療的ケアが必要な方/在宅で療養を続けたい方/ターミナルケア(看取り)を希望する方/介護する家族が医療処置の不安を抱えている方/認知症や精神疾患で通院が難しい方。介護認定の有無にかかわらず、主治医が必要と判断すれば利用できます。
医療保険と介護保険、どちらを使う?
訪問看護の特徴のひとつは、医療保険と介護保険のどちらかが適用されるという点です。どちらが使われるかは、年齢・疾病・介護認定の有無によって決まります。
基本ルール:介護保険が原則優先
65歳以上で要支援・要介護の認定を受けている方、および40〜64歳で介護保険の「特定疾病」(16疾病:末期がん・関節リウマチ・ALS等)に該当する方は、原則として介護保険が優先されます。
例外:厚生労働省「別表第七」該当者は医療保険
ただし、介護保険の対象者であっても、厚生労働大臣が定める「特掲診療料の施設基準等別表第七」に掲げる20疾病に該当する場合は医療保険が適用されます。該当者は通常週3日までの訪問上限が週4日以上も可能になります。
| 区分 | 適用保険 | 訪問回数 |
|---|---|---|
| 40歳未満 | 医療保険(原則週3日まで) | 別表7該当で週4日以上可 |
| 40〜64歳(特定疾病なし) | 医療保険(原則週3日まで) | 別表7該当で週4日以上可 |
| 40〜64歳(特定疾病該当) | 介護保険優先、別表7該当は医療保険 | ケアプランによる |
| 65歳以上(要介護認定なし) | 医療保険 | 原則週3日まで |
| 65歳以上(要介護認定あり) | 介護保険優先、別表7該当は医療保険 | ケアプランによる |
別表第七の主な疾病(20疾病)
- 末期の悪性腫瘍(がん)/多発性硬化症/重症筋無力症/スモン
- 筋萎縮性側索硬化症(ALS)/脊髄小脳変性症/ハンチントン病
- 進行性筋ジストロフィー症/パーキンソン病関連疾患(一部の進行例)
- 多系統萎縮症/プリオン病/亜急性硬化性全脳炎/ライソゾーム病
- 副腎白質ジストロフィー/脊髄性筋萎縮症/球脊髄性筋萎縮症
- 慢性炎症性脱髄性多発神経炎/後天性免疫不全症候群(HIV)
- 頸髄損傷/人工呼吸器を使用している状態
※ 詳細な範囲は厚生労働省の告示に基づきます。該当するかは主治医にご確認ください。
受けられる医療行為の6つの領域
訪問看護で提供される医療ケアは幅広く、主治医の「訪問看護指示書」に基づいて実施されます。大きく次の6つの領域に整理できます。
1. 健康状態の観察・管理
- バイタルサインのチェック(血圧・体温・脈拍・呼吸・SpO2)
- 全身状態の観察と主治医への報告
- 症状悪化の早期発見
2. 医療処置
- 点滴・注射(インスリン注射・皮下注射等)
- 褥瘡(床ずれ)の予防・処置
- カテーテル・膀胱留置カテーテルの管理・交換
- 経管栄養(胃ろう・経鼻栄養)の管理
- 在宅酸素療法・人工呼吸器の管理
- ストマ(人工肛門・膀胱)のケア
3. 療養上の世話
- 清拭・入浴介助(医療的管理下)
- 口腔ケア・口腔内の観察
- 排泄ケア(摘便・浣腸を含む)
4. ターミナルケア(看取り)
- 疼痛管理(医療用麻薬の使用支援)
- 呼吸困難・苦痛症状の緩和
- 本人・家族への精神的支援
- 看取りの立ち会い・死亡確認(主治医との連携)
5. リハビリテーション
訪問看護ステーションに理学療法士(PT)・作業療法士(OT)・言語聴覚士(ST)が在籍していれば、リハビリ専門職による訪問が可能です。訪問看護の枠組みで提供されるため、「訪問リハビリ」と区別してください。
6. 療養指導
- 服薬管理・服薬指導
- 栄養・食事指導
- 家族への介護技術指導
- 医療機器の取り扱い指導
訪問看護は医師の指示の範囲で医療行為を行うサービスのため、純粋な生活援助(家族の食事作り・大掃除・ペットの世話など)は対象外です。これらは訪問介護(ヘルパー)が担当します。両方を組み合わせるのが一般的です。
料金はいくらかかる?自己負担の目安
介護保険の場合(2024年6月1日改定)
訪問看護ステーションからの訪問は、時間区分ごとに単位数が定められています。1単位の単価は地域によって10.00円〜11.40円(8段階地域区分)となっており、ここでは1単位10円で概算します。都市部(東京23区等)では1単位11.40円となるため、金額はやや高くなる傾向があります。
| 訪問時間 | 単位数 | 1割負担の目安 |
|---|---|---|
| 20分未満 | 314単位 | 約314円 |
| 30分未満 | 471単位 | 約471円 |
| 30分〜1時間未満 | 823単位 | 約823円 |
| 1時間〜1時間30分未満 | 1,128単位 | 約1,128円 |
※ 病院・診療所が提供する場合はこれより低い単位数です(例:30分未満399単位、30分〜1時間未満574単位)。地域加算・緊急時訪問看護加算・特別管理加算などが別途加算される場合があります。
医療保険の場合(2024年診療報酬)
訪問看護ステーションが提供する場合は、「訪問看護療養費」が基本料金として算定されます。基本療養費(I)=保健師・看護師が30分以上訪問する場合の料金は、週3日まで 5,550円/日、週4日以上 6,550円/日(2024年改定後)。30分未満はそれぞれ4,250円/日・5,100円/日で、准看護師が訪問する場合はさらに低い単価となります。これに「訪問看護管理療養費」や各種加算(24時間対応体制加算、特別管理加算など)が加わるしくみです。自己負担は医療保険の負担割合(1〜3割、年齢・所得による)を乗じた額になります。
※ リハビリ職(PT・OT・ST)が訪問する場合は、看護師より低い単価設定です。75歳以上で高額療養費の上限に達している方は、実質の負担増が限定的になる場合があります。
医療保険は月額の自己負担上限を超えると高額療養費制度で払い戻されます。介護保険も同様に高額介護サービス費があります。収入・年齢によって上限額が異なるため、市区町村または協会けんぽ等の窓口で確認してください。
利用開始までの5ステップ
在宅療養が必要になったら、まずかかりつけ医・主治医に訪問看護の必要性を相談します。退院時は病院のMSW(医療ソーシャルワーカー)が窓口になります。
主治医が「訪問看護指示書」を発行します。この指示書がなければ訪問看護は開始できません。有効期間は最長6か月です。
近隣の訪問看護ステーションを選びます。介護保険で利用する場合は、ケアマネジャーのケアプランに組み込む形で契約します。医療保険の場合は直接ステーションと契約可能です。
ステーションの看護師が、主治医の指示書に基づいて「訪問看護計画書」を作成します。本人・家族に説明し同意を得た上で、訪問開始です。
通常は週1〜3回の定期訪問(30分〜1時間)が基本で、状態に応じて回数・時間は調整されます。24時間対応体制加算を算定しているステーションであれば、夜間・休日の電話相談や緊急訪問にも対応してもらえるケースが多いです。
訪問看護と訪問介護はどう違う?
どちらも自宅を訪問するサービスですが、提供者・目的・できることが大きく異なります。
| 項目 | 訪問看護 | 訪問介護 |
|---|---|---|
| 提供者 | 看護師・保健師・准看護師・助産師・リハ職(PT/OT/ST) | ホームヘルパー(介護福祉士・初任者研修修了者等) |
| 根拠 | 主治医の訪問看護指示書 | ケアマネジャーのケアプラン |
| 主な目的 | 医療的ケア・療養支援 | 日常生活の支援 |
| できること | 点滴・褥瘡処置・服薬管理・医療機器管理・ターミナルケア等 | 食事・排泄・入浴介助・調理・掃除・洗濯・買い物等 |
| できないこと | 家族の食事作り・大掃除・本人以外の世話 | 医療行為(注射・点滴・褥瘡処置等) |
| 保険 | 医療保険 or 介護保険 | 原則介護保険のみ |
医療ケアと生活援助はどちらも必要になるケースが多く、訪問看護と訪問介護の併用が一般的です。両者の連携はケアマネジャーが調整します。訪問介護が見つからない場合の対処も併せて参考にしてください。
全国の訪問看護ステーション数
訪問看護ステーションは全国17,329か所(全国訪問看護事業協会 2024年4月1日 稼働数)、厚生労働省の介護サービス施設・事業所調査では18,042か所(2024年10月1日)と、過去最高を更新し続けています。2023年度中に新規開設が2,437か所、廃止が701か所、休止が291か所(いずれも同協会集計)となり、増設ペースは維持されていますが、廃止・休止もいずれも過去最多です。
地域格差が大きい
全国平均は65歳以上人口1万人あたり約5.2ヶ所ですが、都道府県によって最多14.9ヶ所(田川市=福岡県ベース)から最少ゼロ(平川市・小美玉市・香美市の3市)まで大きな差があります。在宅医療体制の地域差は、訪問看護の事業所密度に現れています。
よくある質問
訪問看護と訪問介護の違いは何ですか?
訪問看護は看護師が医師の指示書に基づいて医療的なケア(点滴管理、褥瘡処置、服薬管理、ターミナルケア等)を提供するサービスです。訪問介護はヘルパーが身体介護や生活援助を行うサービスで、医療行為はできません。両方を併用するのが一般的です。
訪問看護は介護保険と医療保険のどちらで使いますか?
要介護認定を受けている65歳以上の方は原則として介護保険が優先されます。ただし、厚生労働省が定める「別表第七」の20疾病(末期がん・ALS・多発性硬化症など医療ニーズの高い疾病)に該当する場合は、要介護認定があっても医療保険が適用されます。40〜64歳で介護保険の特定疾病に該当しない方は医療保険のみとなります。
訪問看護の自己負担はいくらかかりますか?
介護保険の場合、訪問看護ステーションからの訪問は30分未満で471単位(1単位約10〜11円)で、1割負担の方は1回約470〜520円程度です。30分〜1時間未満は823単位。医療保険の場合は年齢・所得に応じて1〜3割負担で、基本療養費(I)は週3日まで1日5,550円、週4日以上1日6,550円です(2024年診療報酬)。
訪問看護を利用するにはどうすればよいですか?
まず主治医に相談し、訪問看護の必要性を判断してもらいます。必要と判断されれば主治医が「訪問看護指示書」を発行し、訪問看護ステーションと契約を結びます。介護保険で利用する場合はケアマネジャーのケアプランに組み込み、医療保険の場合は直接ステーションと契約できます。退院時は病院のMSW(医療ソーシャルワーカー)が窓口です。
24時間対応してくれるステーションはありますか?
24時間対応体制加算を算定している訪問看護ステーションは、夜間・休日でも電話相談・緊急訪問に対応します。ターミナル期の方や医療的ケア児者など緊急性の高い方には必須の機能です。契約時に24時間対応の有無を必ず確認してください。
まとめ
訪問看護は、病院で受けていた医療ケアの多くを在宅で継続できるサービスです。医療保険と介護保険のどちらが適用されるかは年齢・疾病・介護認定の有無で決まり、特に厚労省の「別表第七」該当疾病かどうかが重要な分岐点です。
まずは主治医に相談し、訪問看護指示書の発行から始まります。介護保険の場合はケアマネジャー、医療保険の場合は直接ステーションが窓口です。訪問介護との併用が一般的なため、生活支援と医療ケアを組み合わせたケアプランを設計しましょう。
出典・参考
・厚生労働省「介護サービス施設・事業所調査(令和6年)」/ 訪問看護ステーション18,042か所
・全国訪問看護事業協会「訪問看護ステーション数(2024年4月1日現在)」/ 稼働数17,329か所
・厚生労働省「特掲診療料の施設基準等別表第七」/ 医療保険適用疾病20疾病
・厚生労働省「指定居宅サービス介護給付費単位数等」/ 訪問看護単位数(2024年6月1日改定)
・厚生労働省「診療報酬点数表 訪問看護療養費」/ 基本療養費(I)(2024年改定)
全数値は2026年4月時点で確認したものです。改定等により変動する可能性があるため、利用時は最新情報を主治医・ケアマネジャー・ステーションにご確認ください。