長崎県の成績表
当サイトの分析シリーズで、長崎県は繰り返し上位に登場してきました。
| 指標 | 長崎県 | 全国平均 | 全国順位 |
|---|---|---|---|
| グループホーム | 8.0 | 3.8 | 全国1位 |
| 認知症ケア(3サービス計) | 12.5 | 6.3 | 全国1位 |
| 施設の受け皿(4種別計) | 16.4 | 10.1 | 全国2位 |
| ショートステイ | 5.5 | 4.1 | 上位 |
| 訪問看護 | 5.7 | 5.2 | 平均的 |
離島が971もあり(全国最多)、面積の13%が離島。地理的にはサービス提供が最も困難な県の一つ。にもかかわらず、入所系・地域密着型サービスで全国トップ。この「矛盾」の中身を見ていきます。
佐世保市 — 130施設の内訳
長崎モデルの最も分かりやすい例が佐世保市です。
| 施設種別 | 佐世保市 | 参考:松原市(大阪) |
|---|---|---|
| 特養 | 17 | 2 |
| 老健 | 7 | 0 |
| グループホーム | 65 | 2 |
| 認知症デイ | 21 | 0 |
| 小規模多機能 | 44 | 0 |
| 有料老人ホーム等 | 13 | 1 |
| 合計 | 167 | 5 |
佐世保市(65歳以上7.8万人)と松原市(3.4万人)は高齢者数で2倍程度の差だが、施設数は33倍。特にGH65ヶ所、小規模多機能44ヶ所が目を引きます。
この差を地図上で確認できます → 佐世保市と松原市の施設マップ比較
「小さく、多く、近くに」の戦略
100床の特養を1ヶ所建てるより、9人のGHを11ヶ所作る。佐世保市のGH65ヶ所は、1ヶ所あたり平均9〜18人規模。初期投資が小さいため、民間事業者が参入しやすい。土地代が安い地方ほど有利な戦略。
施設を1ヶ所に集中させず、各地域に分散させる。GHは地域密着型サービスのため住民票のある市の施設しか使えないが、市内のどの地域にも近くに施設がある状態を作れば、住み慣れた場所で暮らし続けられる。佐世保市の施設マップを見ると、市内全域にマーカーが散らばっていることが確認できる。
認知症デイ21ヶ所は全国の市でトップクラス。一般のデイサービスではなく認知症に特化した少人数の通いの場。小規模多機能44ヶ所は「通い+泊まり+訪問」のオールインワン。この2つが多いことで、GH入所前の段階でも在宅で認知症ケアを受けられる。
南島原市 — 全国1位の内訳
人口あたりの施設数で全国1位の南島原市(1万人あたり28.0施設)も長崎県です。
人口4.2万人(65歳以上1.7万人)の小都市に、特養8・老健4・GH32・有料4の計48施設。GH32ヶ所が突出しています。島原半島の南端で、地理的には過疎地。それでもこの密度。
「過疎地だから介護が薄い」は必然ではない。長崎は過疎地でありながら全国トップの密度を達成している。その差は自治体の方針と事業者の参入意欲で決まっています。
なぜ長崎でこれが可能だったのか
長崎県には五島列島・壱岐・対馬など大きな離島がある。本土の施設に頼れないため、各離島に小規模な介護拠点を自前で整備する必要があった。この経験が本土の過疎地にも展開された。
2006年の介護保険法改正で地域密着型サービスが制度化された際、長崎県は全国に先駆けてGH・小規模多機能の整備を推進した。県の介護保険事業計画でこれらのサービスの整備目標を高く設定し、事業者への働きかけを積極的に行った。
GHや小規模多機能の開設に必要な土地・建物のコストが都市部より圧倒的に安い。東京でGHを1ヶ所開くコストで、長崎なら3〜4ヶ所開ける。また、地域の結びつきが強く、「この地域にGHが必要だ」という合意形成がしやすい。
東京との対比
東京都は全国でGH・認知症ケアともに最低です。地価が高すぎてGHの新設が困難。武蔵野市(GH3ヶ所/3.3万人)、あきる野市(GH3ヶ所/2.5万人)はGH分析でワースト圏に入りました。
長崎モデルは「土地が安い」ことが前提条件の一つです。東京にそのまま適用はできません。しかし「小さくして数を増やす」という発想自体は、空き家活用や民家改修型のGH・小規模多機能として都市部でも応用可能です。
他の地域への示唆
長崎モデルは、以下の条件がある地域で特に参考になります。
- 土地代が安い(地方都市・過疎地)
- 大規模施設の建設費が確保できない
- 高齢者が広い面積に分散して住んでいる
- 認知症の方が「住み慣れた場所」で暮らし続けたい
逆に言えば、介護が届かない地域の政策考察で取り上げた北杜市(602km²)や下呂市(851km²)のような広大な市でも、長崎のようにGHと小規模多機能を点在させれば、介護インフラの空白を埋められる可能性があります。
本記事は、当サイトが公開しているGH分析・認知症ケア分析・施設の受け皿分析・ショートステイ分析の長崎県データを横断的にまとめたものです。佐世保市と松原市の比較は、厚労省「介護サービス情報公表システム」のデータを市区町村別に集計した結果に基づきます。長崎県の政策的背景に関する記述は、長崎県介護保険事業支援計画および関連資料を参考にした考察です。