何が変わるのか ― 地域支援事業への移行とは
現在、要介護1〜5の方が利用する訪問介護やデイサービスは介護給付として全国一律の基準で提供されている。報酬額も人員配置基準も国が決めており、どの自治体に住んでいても同じ制度の下でサービスを受けられる。
2027年の介護保険改正では、要介護1・2の方が利用する訪問介護・通所介護の一部を地域支援事業(総合事業)に移行する方向で議論が進んでいる。
地域支援事業とは、市区町村が独自に設計・運営する事業だ。すでに要支援1・2の方の訪問型・通所型サービスは2015年に地域支援事業に移行済みであり、今回はその対象が要介護1・2にまで拡大される形になる。
| 現行(介護給付) | 移行後(地域支援事業) | |
|---|---|---|
| 基準の決定者 | 国(全国一律) | 市区町村(自治体裁量) |
| 報酬水準 | 国が定めた介護報酬 | 自治体が独自に設定 |
| 人員配置 | 国の基準に準拠 | 自治体の判断で緩和可能 |
| サービス提供者 | 指定事業所 | 指定事業所+NPO・ボランティア等 |
| 財源 | 介護保険特別会計(国50%・保険料50%) | 市区町村の予算枠内 |
2015年に要支援の訪問・通所が地域支援事業に移行した際、報酬単価の引き下げにより撤退する事業者が相次いだ地域がある。要介護1・2で同じことが起きれば、影響を受ける利用者の数は桁違いに多い。
なぜ移行するのか ― 財政圧迫の構造
移行の背景にあるのは介護保険財政の限界だ。
2025年に団塊の世代が全員75歳以上の後期高齢者になった。介護保険を利用する高齢者は急増する一方、保険料を負担する現役世代は減少を続けている。この構造的な収支ギャップは今後さらに拡大する。
- 介護給付費は年間約12兆円。2040年には約25兆円に膨張すると推計されている
- 第1号被保険者の保険料は全国平均で月額6,225円(第9期)。制度開始時(2000年)の2,911円から倍増
- 現行制度のまま続ければ、2040年代には保険料が月額1万円を超える試算もある
国としては、比較的軽度な要介護1・2のサービスを介護給付から切り離し、市区町村に財源管理を委ねることで、介護保険本体の支出を抑制したい。これが移行の財政的ロジックだ。
問題の核心 ― 自治体ごとのサービス格差
制度移行そのものが問題なのではない。問題は、移行先の地域支援事業の質が自治体によって大きく異なることだ。
地域支援事業は市区町村の裁量に委ねられるため、以下のすべてが自治体ごとにバラバラになる。
- サービスの種類と内容(専門職によるサービスか、ボランティアか)
- 報酬単価(事業者が参入する動機に直結する)
- 利用回数の上限
- 利用者の自己負担額
財源が豊かで高齢者施策に積極的な自治体では、移行後も従来と遜色ないサービスが維持されるだろう。しかし、税収が少なく高齢化率の高い自治体では、報酬を引き下げざるを得ない。報酬が下がれば事業者は撤退し、サービスの選択肢そのものがなくなる。
これは仮定の話ではない。当サイトの既存データが、すでにこの格差の存在を示している。
データで見る「すでにある格差」
地域支援事業への移行はこれからだが、介護サービスの地域格差はすでに深刻な水準にある。当サイトが厚生労働省データを分析した結果の一部を紹介する。
デイサービスの密度格差:17倍
65歳以上1万人あたりのデイサービス事業所数は、最多の自治体と最少の自治体で17倍の差がある。選び放題の地域と、1か所しかない(またはゼロの)地域が共存している。
訪問介護の充足率格差
訪問介護事業所の数は都市部に集中し、地方では圧倒的に不足している。ヘルパー不足で新規受け入れを停止している事業所も多く、「事業所はあるがサービスが受けられない」地域が拡大中だ。
小規模多機能の地域格差:7.6倍
要介護1・2の在宅生活を支える切り札とされる小規模多機能型居宅介護は、都市部で少なく地方で充実するという逆転構造がある。都市部の要介護1・2の受け皿は、移行後にさらに手薄になる可能性がある。
介護施設の受け皿格差:20倍
特養・老健・グループホーム・有料老人ホームの4種別合計で、65歳以上人口あたりの定員数は自治体間で最大20倍の格差がある。在宅サービスが不足している地域で施設にも入れなければ、行き場がなくなる。
地域支援事業への移行は、サービスが充実している地域ではスムーズに進むだろう。しかし、すでにサービスが不足している地域では、移行がさらなるサービス縮小の引き金になりかねない。「格差の拡大」ではなく「格差の固定化」が起きる。
移行で何が起きるか ― 3つのシナリオ
シナリオ1:都市部(財源あり・事業者多い)
報酬水準を維持し、既存の事業者がそのままサービスを提供。利用者への影響は限定的。東京特別区や政令市の一部がこれに当たる可能性が高い。
シナリオ2:地方中核市(財源は中程度・事業者不足気味)
報酬を若干引き下げ、一部をNPOやボランティアに置き換え。専門性が下がり、特に認知症のある要介護1・2の方へのケアの質が低下するリスク。
シナリオ3:過疎地域(財源乏しい・事業者ゼロに近い)
そもそも事業者がいないため、地域支援事業として成立しない。ボランティアも高齢化で担い手不足。事実上のサービス空白が生まれ、要介護度の悪化が加速する。結果として施設入所の需要が増え、かえって財政負担が増大するという逆説が起きうる。
2015年の要支援者の地域支援事業移行では、総合事業の報酬単価が国基準の7〜8割に設定された自治体があり、事業者の撤退や受け入れ制限が発生した。要介護1・2は要支援よりもサービスの必要度が高いため、報酬引き下げの影響はさらに大きくなる。
ケアマネ・家族がいまできること
ケアマネジャーの方へ
- 担当利用者の要介護1・2の割合を把握する ― 自分の担当利用者のうち、移行対象になりうる人数を確認。影響規模を事前に把握しておく
- 自治体の動向を早期にキャッチする ― 市区町村の介護保険事業計画(第10期:2027〜2029年)の策定過程で、地域支援事業の設計が決まる。パブリックコメントや地域ケア会議を通じた情報収集が重要
- 代替サービスの選択肢を洗い出す ― 地域支援事業のサービスだけでなく、配食・見守り・生活支援など介護保険外のサービスも含めた選択肢の準備
ご家族の方へ
- 親の住む地域のサービス状況を確認する ― 「デイサービスは何か所あるか」「訪問介護の空きはあるか」を把握しておく。当サイトの地域検索や各種分析記事が参考になる
- ケアマネジャーに改正の影響を質問する ― 「うちの親は移行対象になりますか?」「この地域ではどうなりそうですか?」と具体的に聞く
- 地域包括支援センターに相談する ― 自治体の計画策定が始まる前に、地域の課題を伝えておくことも住民としてできること
まとめ
2027年の介護保険改正で、要介護1・2の訪問介護・通所介護が地域支援事業に移行する方向だ。これにより、サービスの設計・報酬・質のすべてが市区町村の裁量に委ねられる。
問題は、介護サービスの地域格差がすでに深刻な水準にあることだ。デイサービス密度17倍、施設受け皿20倍という既存の格差の上に制度変更が重なれば、サービスが乏しい地域はさらに追い込まれる。
「住む場所によって受けられる介護が変わる」時代がすぐそこに来ている。
社会保障審議会介護保険部会「介護保険制度の見直しに関する意見」(2025年12月)。介護保険法等の一部を改正する法律案(2026年閣議決定)。厚生労働省「介護給付費等実態統計」「介護サービス施設・事業所調査」。地域格差データは当サイト独自分析(各分析記事に詳細手法を記載)。保険料データは厚生労働省「介護保険事業状況報告」。