看取りガイド

在宅看取りガイド
希望する69%と現実の17%の差を埋める準備

自宅で最期を迎えたいと希望する方は全体の約70%ですが、実際に自宅で亡くなる方は約17%。この40ポイント以上の乖離は、情報と準備の有無が生むものです。必要な体制・費用・流れを厚労省データで整理します。

希望と現実の乖離

🏠 自宅で最期を迎えたいと希望する方:69.2%(2017年厚労省 人生の最終段階における医療に関する意識調査、末期がんを想定した回答)

📊 実際に自宅で亡くなった方:15.7%(2020年)/ 約17%(2023年)(厚労省 人口動態統計)

1951年時点で在宅死率は82%でした。病院医療の発達とともに病院死が主流となり、1990年代以降は在宅死率が13〜15%程度で推移。2010年代から微増に転じ、2023年は約17%まで回復しています。

なぜ希望と現実が乖離するのか

厚労省の在宅医療推進施策で訪問診療医・訪問看護ステーションは増加していますが、地域差が大きく、過疎地では希望しても環境が整わないケースが多くあります(訪問看護が届かない地域の分析)。

在宅看取りに必要な5つの条件

在宅看取りを成功させるには、以下の5つの条件が整っていることが理想です。1つでも欠けると、最期の場面で病院搬送になるケースが増えます。

条件1:24時間対応の訪問診療医

「在宅療養支援診療所」または「在宅療養支援病院」と呼ばれる医療機関が主治医になります。これらは24時間連絡可能で、必要時に往診できる体制を持つ医療機関です。厚労省の基準で、在宅療養支援診療所の要件として「24時間連絡を受ける体制」「24時間往診・訪問看護の提供体制」が定められています。

探し方:かかりつけ医、地域包括支援センター、またはケアマネジャーに相談。病院退院時は病院のMSW(医療ソーシャルワーカー)が調整役になります。

条件2:24時間対応の訪問看護ステーション

ターミナル期は容態変化が早く、深夜・早朝の対応が発生します。「24時間対応体制加算」を算定している訪問看護ステーションなら、夜間・休日でも電話相談・緊急訪問に対応します。訪問看護の仕組みは 訪問看護とは|仕組み・費用・保険の使い分け を参照してください。

条件3:介護を支える家族または訪問介護

訪問看護が毎日来るわけではありません(通常 週1〜3回、ターミナル期は週4日以上も可)。日常の食事介助・清拭・体位変換などは家族または訪問介護ヘルパーが担います。独居の場合は訪問介護の回数を増やし、定期巡回・随時対応型訪問介護看護(24時間対応)の利用も検討します。

条件4:疼痛管理体制(医療用麻薬含む)

末期がん等では痛みのコントロールが不可欠です。訪問診療医が医療用麻薬(モルヒネ等)を処方し、訪問看護師が自宅で投与管理を行います。緊急時用の頓用薬も事前に処方されているのが一般的です。

条件5:ACP(人生会議)による事前の話し合い

最も軽視されがちですが、最も重要な条件です。本人の意思・希望を家族・医療チームで共有しておくことで、急変時や最期の瞬間に「救急車を呼ばない」という判断ができるようになります。次のセクションで詳しく解説します。

ACP(人生会議)とは

ACP(アドバンス・ケア・プランニング)は、もしものときのために、自分が望む医療やケアについて、家族や医療・介護チームと繰り返し話し合い、共有する取り組みです。厚生労働省は2018年に「人生会議」という愛称を設定し、毎年11月30日(いい看取り・看取られ)を「人生会議の日」としています。

なぜACPが必要か
厚生労働省によれば、命の危機が迫った状態になると約70%の方が自分で医療やケアを決めたり、望みを人に伝えたりできなくなるとされています。元気なうちから話し合って決めておかなければ、本人の希望と違う医療が選択されてしまう可能性があります。

ACPで話し合うべき内容

ACPの進め方

  1. 1回で終わらせない ― 状況の変化に応じて繰り返し話し合う
  2. 家族だけでなく医療・介護チームと共有 ― かかりつけ医、ケアマネ、訪問看護師と共有
  3. 書面に残す ― 「人生会議ノート」や市区町村配布の記入シートを活用
  4. 意思決定代理人を決めておく ― 複数の家族の中で、誰が主導するかを明確に

厚労省は普及啓発資料を公開しています(「人生会議してみませんか?」)。市区町村の地域包括支援センターでも相談可能です。

在宅看取りの流れ

ステップ1(発症・診断〜退院前):方針決定
主治医から予後の見通しを聞き、本人・家族で在宅看取りを選択するか話し合う。退院前カンファレンスで病院スタッフと地域の医療・介護チームを繋ぐ。
ステップ2(退院後〜安定期):体制構築
訪問診療医・訪問看護ステーション・ケアマネ・訪問介護を揃える。福祉用具(介護ベッド・褥瘡予防マット・吸引器等)をレンタル。家族は介護技術を習得。ACPで本人意思を確認。
ステップ3(進行期):症状管理
痛み・呼吸困難・不眠・食欲低下などの症状に対して、訪問診療医が薬を調整。訪問看護師が自宅で処置を実施。医療用麻薬の投与管理もここで行われる。
ステップ4(臨死期・最終1〜2週間):頻繁な訪問
訪問看護は週4日以上可能な特別訪問看護指示書が発行される。訪問頻度が週数回〜毎日に増加。家族への看取りの説明、最期の過ごし方の確認。
ステップ5(看取り当日):死亡確認
呼吸停止を確認したら、まず訪問看護師に連絡(救急車は呼ばない)。看護師から主治医に連絡し、主治医が死亡確認と死亡診断書を発行する。事前に決めていた葬儀社に連絡。

なぜ救急車を呼ばないのか

在宅看取りを選択していても、最期の瞬間に救急車を呼んでしまうと、救急隊は蘇生措置を行い、病院搬送となります。本人の希望と違う形で最期を迎えることになり、家族も後悔することが多い場面です。

事前にACPで「救急車は呼ばない」方針を共有しておき、臨死期には訪問看護師の緊急連絡先を家族全員が把握しておくことが重要です。

費用・医療保険と介護保険

在宅看取りでは、訪問診療・訪問看護・訪問介護・医療用麻薬・福祉用具レンタル等の費用がかかります。医療保険と介護保険の組み合わせで自己負担額を抑えられます。

訪問看護ターミナルケア加算(2024年改定)

訪問看護で看取りを行った場合、通常料金に加えてターミナルケア加算が算定されます。

区分 加算内容 算定要件
介護保険ターミナルケア加算 2,500単位(2024年改定後、従来2,000単位)死亡日および死亡日前14日以内に2日以上のターミナルケアを実施
医療保険訪問看護ターミナルケア療養費 25,000円(1回)死亡日および死亡日前14日以内に2回以上の訪問実施

※ 介護保険は1単位10〜11.40円で換算(地域差)。要支援は対象外で要介護者のみ算定可能。

自己負担の概算(1ヶ月・要介護3の例)

訪問診療 週2回+訪問看護 週3回+訪問介護 週5回+福祉用具レンタルの組み合わせで、介護保険1割負担 + 医療保険負担(年齢により1〜3割)で月額 3〜5万円程度が目安です。医療用麻薬の費用もここに含まれます。高額療養費・高額介護サービス費の上限に達していれば、上限を超える分は払い戻されます。

経済的支援制度
末期がんで急性悪化した場合、病院医療との併用があれば高額療養費制度で自己負担の上限が設定されます。介護保険の自己負担と医療保険の自己負担を合算できる「高額医療・高額介護合算療養費制度」もあるため、市区町村の国保年金課や加入する健康保険組合で確認してください。

家で亡くなった直後の手続き

在宅療養中に亡くなった場合の流れを整理します。救急車を呼ぶ前に、主治医または訪問看護師に連絡するのが原則です。

1. 訪問看護師/主治医に連絡

家族が呼吸停止に気づいたら、まず訪問看護師(24時間対応なら夜間でも可)に電話。看護師が到着後に主治医に連絡します。主治医が自宅に来て死亡確認を行い、死亡診断書を発行します。

警察は関与しません
在宅療養中でかかりつけ医がいる方が、想定された病気で亡くなった場合は、警察への通報は不要です。死因が不明・かかりつけ医がいない場合のみ、警察の検視が入ります。事前に主治医と「最期にどう対応するか」を決めておくことが重要です。

2. 葬儀社に連絡

死亡診断書を受け取ったら、事前に決めていた葬儀社に連絡。葬儀社がご遺体の安置・搬送を手配します。

3. 死亡届の提出(7日以内)

死亡を知った日から7日以内に、死亡診断書と一体の「死亡届」を市区町村役場に提出します。多くの場合、葬儀社が代行してくれます。この提出により「火葬許可証」が発行されます。

葬儀後の手続き(年金停止 14日以内・健康保険変更 14日以内・世帯主変更・相続など)は市区町村役場・年金事務所・金融機関で順次手続きを進めます。多くは葬儀社が案内してくれます。

よくある質問

在宅看取りを希望する人はどのくらいいますか?

厚生労働省の2017年「人生の最終段階における医療に関する意識調査」では、末期がんを想定した質問で69.2%の方が自宅で最期を迎えたいと回答しています。一方、実際に自宅で亡くなった方の割合は2020年で15.7%、2023年で約17%(厚労省人口動態統計)。希望と現実には大きな乖離があり、事前の準備が結果を左右します。

在宅看取りには何が必要ですか?

(1)24時間対応できる訪問診療医(在宅療養支援診療所等)、(2)24時間対応の訪問看護ステーション、(3)介護を支える家族または訪問介護、(4)医療用麻薬などの疼痛管理体制、(5)家族間と医療・介護チームでの事前の話し合い(ACP・人生会議)の5つが揃うことが理想です。ケアマネジャーと主治医が中心になって体制を組みます。

訪問看護のターミナルケアの費用はどのくらいですか?

介護保険の場合、通常の訪問看護料金に加え、死亡日および死亡日前14日以内に2日以上のターミナルケアを実施した場合「ターミナルケア加算」2,500単位(2024年改定で引き上げ)が算定されます。1割負担の方は約2,500円。医療保険の場合は訪問看護ターミナルケア療養費25,000円が1回算定されます。

ACP(人生会議)とは何ですか?

ACP(アドバンス・ケア・プランニング)は、もしものときのために、自分が望む医療やケアについて家族や医療・介護チームと繰り返し話し合い共有する取り組みです。厚生労働省が「人生会議」という愛称を設定し、毎年11月30日を「人生会議の日」としています。命の危機が迫ると約70%の方が自分で意思決定できなくなるとされ、元気なうちから話し合うことが重要です。

家で亡くなった場合の手続きはどうなりますか?

在宅療養中にかかりつけ医がいる方が亡くなった場合、主治医に連絡すれば死亡確認と死亡診断書の発行を行ってもらえます(警察への通報は不要)。かかりつけ医が不在・死因不明の場合は警察に連絡し、検視が入ることがあります。死亡診断書を受け取ったら葬儀社に連絡し、死亡届を7日以内に市区町村役場に提出します。

独居でも在宅看取りはできますか?

可能ですが、体制構築のハードルは上がります。24時間対応の訪問看護・定期巡回型訪問介護・近隣住民の見守り・緊急通報装置などを組み合わせる必要があります。家族が遠方の場合は、臨死期に帰省して付き添う計画を立てるケースが多いです。独居の在宅看取りは地域包括支援センターとケアマネジャーに早めに相談してください。

まとめ

約70%の方が自宅での最期を希望する一方、実際に自宅で亡くなる方は約17%。この乖離は情報不足と準備不足が主因です。在宅看取りを成功させるには、訪問診療医・訪問看護・訪問介護・疼痛管理・ACP(人生会議)の5つの条件が必要です。

最も重要なのは、元気なうちに本人・家族・医療チームで話し合い、希望を明確にしておくことです。11月30日の「人生会議の日」を機に、一度話し合いの場を設けてみてください。具体的な体制構築は、かかりつけ医・ケアマネジャー・地域包括支援センターが窓口になります。

出典・参考
・厚生労働省「人口動態統計」/ 在宅死率 2020年15.7%、2023年約17%
・厚生労働省「人生の最終段階における医療に関する意識調査」(2017年)/ 自宅希望69.2%
・厚生労働省「人生会議してみませんか?」/ ACPの愛称・11月30日「人生会議の日」
・厚生労働省「在宅医療の最近の動向」/ 在宅療養支援診療所等の要件
・厚生労働省「指定居宅サービス介護給付費単位数等」(2024年6月1日改定)/ ターミナルケア加算2,500単位
・厚生労働省「診療報酬点数表」(2024年改定)/ 訪問看護ターミナルケア療養費25,000円
全数値は2026年4月時点で確認したものです。利用時は最新情報を主治医・ケアマネジャー・市区町村窓口にご確認ください。

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